最後に、テレワーク導入を検討する前に必要な準備と、知っておくと便利な助成金・補助金についてご紹介します。導入前には、必ずチェックしておきましょう。
労務管理
テレワーク時にも、労働基準法などが適用されます。特に自宅でのテレワークの場合、下記内容に注意する必要があります。
- 労働条件の明示
- 労働時間の把握
- 業績評価、人事管理等の取扱い
- 通信費、情報通信機器等の費用負担
- 社内教育の取扱い
労働時間の管理には、「始業・終業時刻の管理」「在籍・離席確認」が有効です。始業・終業時刻の報告は、電話、Eメール、勤怠管理ツールなどの種類があり、管理のしやすさや従業員の使い勝手に合わせて選ぶとよいでしょう。在籍・離席確認も同様です。
ただし、業種によっては必ずしも管理が必要なわけではありません。細かなルールは、労使で話し合って決めることが大切です。
テレワークの休憩時間の取り扱い
労働基準法34条第2項では、原則として労働者には休憩時間を一斉に付与することが規定されています。しかし、テレワーク時には、労使協定により、一斉付与の原則を適用除外とすることができます。 ただし「テレワークなら、仕事の手を止めているかもしれない」「仕事以外のことをしているかもしれない」と、勝手に休憩時間を減らすことはできません。通常勤務同様、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、労働時間が8時間を超える場合は60分以上の休憩を与える必要があります。
テレワークの時間外・休日労働の管理
テレワークにおいても、時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)の締結、届出及び割増賃金の支払や、深夜労働による割増賃金の支払が適応されます。
長時間労働対策
テレワークは、業務の効率化が進む一方で、管理者と離れた場所での労働となることから、長時間労働を招く危険性が指摘されています。長時間労働による健康障害を防ぐためには、「テレワークの時間外・休日・深夜労働の原則禁止」「時間外のメール送付の自粛」「システムへのアクセス制限」「長時間労働を行う者への注意喚起」などが必要です。
通信インフラ・セキュリティ
テレワークを行う際は、通信インフラやセキュリティに関する確認・整備が必要です。具体的にどのような点に配慮が必要なのか、見ていきましょう。
テレワークにおける通信インフラ
テレワークにおける通信インフラとは、インターネット環境、グループウェア、コミュニケーションツールを指します。通常のインターネット回線(公衆回線・専用回線)ではなく、VPN(Virtual Private Network)経由でオフィスと設定を共有する専用回線の場合、より高いセキュリティでの業務が可能になります。ただし、通信インフラを利用する際には、セキュリティが確保されているか、新しいシステム導入時に回線にかかるコストが増えるのかといった点を、改めて確認しておくことが大切です。
テレワークでよく用いられるグループウェアは、英語では「Groupware」または「Collaborative software」と表記されます。ネットワークを使用し、情報共有をしたり、コミュニケーションをとったりするツールのことです。電子メールやファイルの共有機能、スケジュール管理機能などがあります。
さらに、テレワークを成功させるための鍵を握るコミュニケーションツールとして、WEB会議やメール、電話、チャットワークなどが挙げられます。こういったツールは、実際に使ってみなければ効果がわかりにくいものです。試用期間を設け、使い勝手などを試しながら、本格導入に向けて動いていきましょう。
テレワークにおけるセキュリティ
前述したように、テレワークでは、情報漏えいを防ぐ対策に力を入れる必要があります。実際に行うべき対策について、ルール・教育・ツールの3点から解説します。
- セキュリティのルール
テレワークは、オフィス以外の場所で業務を行うため、個々の従業員が判断するケースが増えます。そのため、セキュリティガイドラインを定め、問題の発生を未然に防ぐことが大切になるでしょう。
- セキュリティに関する教育(人)
従業員に対し、セキュリティに対する教育を行います。ルールの趣旨を説明し、理解させることで、ルール遵守への意欲も高めることができるでしょう。
- セキュリティを守る技術(ツール)
ルールや人の判断では対応できない部分に対しては、技術で補います。外部からの攻撃に対し「認証」「検知」「制御」「防御」を自動的に行うシステムの構築が望ましいといえます。
また、モバイルワークにおいては、暗号化されていないFree Wi-Fiの使用を避けたり、不特定多数の第三者が存在している場所(カフェやコワーキングスペースなど)での物理的な覗き込みに注意したりする必要があります。
執務環境
自宅でテレワークを行う場合、作業環境としては下記の環境が望ましいとされています。
ポイント | 内容 |
照明 | 机上は照度300ルクス以上 |
窓 | 窓などの換気設備を設ける |
椅子 | ・安定していて簡単に移動できる
・座面の高さや背もたれの角度を調節できる
・肘掛けがある |
机 | ・必要なものが配置できる広さがある
・作業中に脚が窮屈でない空間がある
・体型に合った高さ、または高さの調整ができる |
温度・湿度 | ・室温17℃~28℃
・相対湿度40%~70% |
ワークスペースの確保のほか、自宅に同居家族がいる場合、家族の生活環境、生活リズムとの調整も重要です。この課題は、自宅以外の作業場所(サテライトオフィスなど)を設けることで、改善可能です。
さらに、モバイルワークの場合も、上記の執務環境がベストではあるものの、一般的なカフェやコワーキングスペースなどでは上記条件をすべて満たすことが難しい傾向にあります。また、セキュリティの面でも不安が残るでしょう。
そのため、企業がサテライトオフィスやレンタルオフィス、貸会議室の活用を積極的に取り入れ、従業員の働く場を整えることが、最も効率的なテレワークの推奨といえるでしょう。
助成金や補助金が出ることもあるので活用しよう
テレワークの導入やサテライトオフィスの利用においては、助成金や補助金が使えることがあります。制度の一部をご紹介します。実施期間はそれぞれ異なるため、詳細は実施元のサイトをご参照ください。
厚生労働省:新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース
対象事業主は、新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを新規導入する中小企業事業主。
テレワーク用通信機器の導入・運用、就業規則・労使協定等の作成・変更などが助成対象です。
公益財団法人東京しごと財団:テレワーク活用推進コース
対象事業者は、常時雇用する労働者が2人以上かつ999人以下で都内に本社または事業所を置く中堅・中小企業等。テレワーク機器導入事業、サテライトオフィス利用事業が助成対象です。
東京都・公益財団法人東京しごと財団:事業継続緊急対策(テレワーク)助成金
対象事業者は、常時雇用する労働者が2人以上999人以下で、都内に本社または事業所を置く中堅・中小企業等。また、都が実施する「2020TDM推進プロジェクト」への参加など、いくつか申請の要件あり。機器等の購入費、クラウドサービス等ツール利用料などが助成対象です。
東京都・公益財団法人東京しごと財団:はじめてテレワーク(テレワーク導入促進整備補助金)
対象事業者は、都内に勤務している常時雇用する労働者を2人以上999人以下、かつ6か月以上継続して雇用していること、就業規則にテレワークに関する規定がないことなど、いくつか申請の要件あり。テレワーク環境の構築、就業規則へのテレワーク制度整備などが助成対象です。
横浜市:令和2年度 職場環境向上支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のための特例あり)
対象事業者は、横浜市内に本社を置き、常時雇用する従業員が2人以上の中小企業(新型コロナウイルス感染症によるテレワーク導入特例に限り、個人事業主も対象)。多様で柔軟な働き方を推進するための研修ほか、テレワーク導入に関する費用(備品購入費、ソフトウェアの使用料、コンサルティング委託料など)などが助成対象です。